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気まぐれに更新。

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オーロラ

 最近のはすごいんだってよ。本物の星空より綺麗なくらいで、こっちに降ってきそうなぐらいの迫力だって。観た友達みんなそう言うんだ。
 彼は連れ添って歩いている女にそう声をかけた。彼女はうん、楽しみだね、と小さく相槌を打つ。うなずきながら伏せられた長いまつげが、ガラスのように透き通った瞳の上に魅力的な影を作った。
 彼が大学生二枚と言ってチケットを買う間も二人の手はゆるやかにつながれていた。チケット売場の女性はしばし彼らの姿を意味ありげに眺めたが、学生証を確認することもなく二枚分の値段を言った。

「本当にすごかったなあ」
「うん。びっくりしたね」
 彼は頬を火照らせ、ひどく興奮した様子で話し続けていた。そのせいで手に持ったハンバーガーの包みはほとんど手が着いていない。
「俺、オーロラの正体初めて知ったし、なによりあのプラネタリウムの映像が半端じゃなかった」
「光とか、臨場感とかね」
「そうそう、臨場感。本当にオーロラ見に行ったみたいだったもん」
「本物以上、かもね」
「ああ、かもしれない。でも本物は見に行けないから比較できないけどなあ、行くの大変そうだし」
 そう言って彼はようやくハンバーガーをむさぼる。彼女は瞳の色と同じ、澄んだ色のアイスティーをストレートで口に含んだ。そして、ストローから、陶器のようになめらかな唇を離すと、目を伏せぽつりと言葉をこぼした。
「にせものだから、プラネタリウムの中でしか見られないにせものだから、綺麗なのかもしれないね」
 その言葉に、彼は確かめるように彼女を見つめる。
「本物にある揺らぎとか不確かさを、そっくり取り除いて磨きあげた形が、あのプログラムなのかもしれないね」
「にせものは、嫌、なの?」
「わからない」
 彼は彼女の瞳をまっすぐに見つめ、口を開きかけてはまた閉じて、言葉の切り出し方を悩んでいるように見えた。そして、ようやく彼の喉から出てきた声は、漲る想いと緊張が詰まっているかのように、震えていた。
「俺は、にせものでも、お前が、この世で一番綺麗だと思ってるんだよ」
 彼女は今にも泣き出しそうに張りつめた表情で顔を赤くする彼の手を合成繊維の張られた手のひらで優しくさすり、表情筋のユニットを柔らかに可動させ、不純物のない笑みを彼に向けた。
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